平成30年の国民健康・栄養調査結果によると、本邦において糖尿病が強く疑われる人は過去最多の約1000万人にのぼります。熊本県においては、国民健康・栄養調査から推計すると熊本県民の40~74歳の約4人に1人が糖尿病予備軍または有病者という状況です。また、平成28年度 特定健康診査結果では、熊本県民の空腹時血糖およびHbA1cは全世代で全国平均値を上回り、特に40~49歳においては、空腹時血糖値は全国平均の130%、HbA1cは全国平均の120%を超えておりと若い世代から血糖値が高いことを示しており、将来の糖尿病患者数増加が危惧される状況です。さらには、透析導入の主要原疾患の割合は糖尿病腎症が最も多いのですが、人口対比の透析患者数については熊本県が全国平均を大きく上回り、平成29年末は全国2位です。糖尿病やその合併症である糖尿病網膜症、腎症、神経障害、心筋梗塞、脳血管障害は、患者様の生活の質を大きく損なうのみならず、医療経済の上からも大きな問題となっています。
熊本県においては、平成17年に「熊本県糖尿病対策推進会議」が設置され、様々な糖尿病対策を進めてまいりました。また、糖尿病の発症予防と重症化阻止、糖尿病合併症の発症・進展阻止を達成するため、多機関・多職種の連携による切れ目のない保健医療サービスを県民に提供できるような体制の整備をするべく、平成21年度から「熊本県糖尿病予防総合対策事業」を開始し、「保健」と「医療」、「かかりつけ医」と「糖尿病専門医」、「医師」と「コメディカル」との連携を推進しています。このような取り組みにより、健診で異常が指摘された住民が適切な医療機関を受診することが可能となり、重症化してしまった糖尿病患者や管理の難しい糖尿病患者を「かかりつけ医」と「糖尿病専門医」の両者で診療する医療連携が促進されるのです。このような糖尿病診療体制の強化・充実に必要となる熊本県内の糖尿病医療スタッフの数的・質的充実を目指して、平成22年には「熊本県糖尿病医療スタッフ養成支援事業」を開始し、日本糖尿病学会が認定する「糖尿病専門医」や日本糖尿病療養指導士認定機構が認定する「日本糖尿病療養指導士(CDEJ)」の養成を支援してまいりました。その一方で、糖尿病専門医やCDEJは熊本市に集中しており二次医療圏域には少ない、多職種・多機関の連携は未だに十分であるとは言えないといった課題が浮き彫りにされてきました。そこで平成28年度から「糖尿病医療の均てん化・ネットワーク支援事業」として多職種の顔の見える関係づくり、連携に関する相談支援、地域住民への普及啓発など、多職種の連携を基盤とする体制作りを支援して参りました。
しかしながら、将来的に生産年齢人口が減少する中、地域に必要とされる糖尿病医療スタッフを維持・確保するためには糖尿病専門スタッフを持続的に育成・輩出する必要があります。また、将来的に予想される高齢者の糖尿病罹患率の増加による疾病構造の変化や複数の医療ニーズを併せ持つ重度の要介護者の増加など、急激な医療・介護ニーズの変化・増大へ対応するためには、これまで以上に高度な専門性と幅広い知識・技能を有する医療人材の育成を促進し維持・確保することが求められています。これらの糖尿病専門の高度医療人材を有効に活かすためには、多職種の顔の見える関係づくり、連携に関する相談支援、地域住民への普及啓発など、これまでに築いてきた多職種の連携を基盤とする体制をさらに充実させる必要があります。そして日々刷新される最新の医療情報の提供とそれに基づく地域保健医療連携の必要性の理解促進のための周知活動や一般住民に向けた糖尿病発症予防や重症化予防の正しい医療情報を発信し健診の重要性を啓発する活動がより一層重要になると考えられます。
このような現状を踏まえ、前身にあたる「糖尿病医療の均てん化・ネットワーク支援事業」をステップアップし、令和2年から「糖尿病発症・重症化予防対策支援事業」(以下、本事業と省略します)を開始することになりました。本事業では、
- 高度な専門性と幅広い知識・技能を有する医療人材の育成促進と維持・確保
- 多職種間での個々の患者情報の共有と保健医療連携体制の強化
- 多職種間での最新の医療情報の共有・糖尿病保健医療連携の必要性の理解促進のための周知活動および一般住民への糖尿病発症予防や健診の重要性の啓発
の3つを軸とした活動を通じて、多職種の連携を基盤とする糖尿病保健医療連携体制を充実・発展させ、糖尿病専門の高度医療人材を有効に活かせる強固な連携関係を構築することを目的としています。
本ホームページでは、糖尿病について学習しようと考えている医療関係者・研究者・医療保険者・市町村の保健衛生行政担当者・学生の方々に、熊本県内で開催される研究会・勉強会を検索し、学習の質と量を確保して頂くため、『県内の糖尿病関連研究会』のページを作成しました。また、糖尿病専門医やCDEJ、CDE-Kumamotoの養成を支援するための『受験者向け情報』のページ、さらに『市町村の実施事業』を紹介するページを設け、糖尿病医療スタッフが生活習慣改善指導を必要とする住民に当該地域で利用可能な保健サービス(栄養指導や運動療法教室など)を紹介できるようにしました。その他、『糖尿病の啓発活動』、『糖尿病関連の学会』、糖尿病診療の必要書式(専門医宛紹介状、および逆紹介状の書式)や糖尿病啓発用チラシを手軽に入手するための『ダウンロード』のページを設けて、熊本県で推進されている糖尿病診療体制に即した糖尿病診療を学習・実践できるよう配慮いたしました。
糖尿病の発症予防・重症化阻止・合併症進展阻止のために必要な医療スタッフの連携、切れ目のない保健医療サービス、上質な糖尿病診療の提供、住民および患者の教育を実践する際に、このホームページをご利用頂ければ幸いに存じます。また、このホームページが、糖尿病医療スタッフの皆様や糖尿病専門医やCDEJ、CDE-Kumamotoをめざす皆様にとって、糖尿病の学習や保健医療連携の一つのツールとして機能するよう、ご活用をお願い申し上げます。